企業の不祥事で危機対応を担当する弁護士が増えています。
最近では旧ジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏の性加害問題における記者会見において、新たな不祥事が発生したことで、その対応を巡って批判が殺到しました。
旧ジャニーズ事務所の危機対応に、問題があったのでしょうか?
今回は、弁護士の郷原信郎氏が書いた批判記事と記者会見に参加した木目田裕弁護士(西村あさひ法律事務所所属)の見解を参考に、危機対応の良し悪しについて考察してみました。
旧ジャニーズ事務所の危機対応に対する郷原氏の意見
旧ジャニーズ事務所は、2023年10月2日の記者会見で社名を変更し、被害者の賠償を行うなどの今後の活動に関する発表をしました。
その会見の翌日、特定の記者を指名しないためのNGリストが作成されていたという報道が出され、その対応に事務所は大きな批判を浴びています。
危機対応に対して、弁護士の郷原信郎氏が批判記事を執筆しているので、その意見についてまとめてみました。
・危機対応は誰のために行うものなのか
郷原氏曰く、危機対応に関する弁護士の立場は微妙だと言います。
弁護士は、経営者や担当の役職員個人といった依頼者の意向・方針に基づいて対応することになります。
ただし、危機対応では社長の辞任など、個人の利益と企業の利益が相反する結果になる可能性があります。
しかし、企業が「社長は辞任しない」という方針を示しているのであれば、弁護士の考え方にもよりますが、ほとんどはその方針に従った対応をする傾向にあるようです。
ジャニーズ事務所という会社は、創業者たる経営者の性加害行為で厳しい社会的批判を受け、存続が許容されない事態となっていることからすれば、「社会的には破綻した会社」とみることができる。その事業の実態を今後どこまで維持していくのか、という問題であり、そういう面で言えば、「倒産処理を受任した弁護士」と同様の立場で対応すべきであったと言えるだろう。
今回の事案に対して郷原氏は、「倒産処理を受任」という立場で弁護士が対応するのが適切であったと指摘しています。
しかし、郷原氏は「性加害問題がここまで大きく批判される状況は、半年前までは誰も想像していなかった事実」、「受任した時点で木目田弁護士もこの状況を見越した対応は困難だっただろう」と、弁護士の立場を擁護する姿勢も見せています。
・記者会見の対応方針への指摘
旧ジャニーズ事務所の記者会見では、一社一問で追加質問なしなどのルールが設定されていました。
これは、「経営者に恥をかかせず、負担を軽減すること」を目的にした「日本的株式総会対策」と似ていると指摘しています。
問題となったNGリストの作成も事務所側への批判を大きくさせない意図で作成されたものと記載されています。
事務所側とコンサルティング会社側は、リストの作成に事務所は関わっていないと述べていました。
そして、コンサルティング会社の選任・運営は、事務所の顧問弁護士が行ったことが明らかになっています。
記者会見の運営について、コンサル会社との間で「直接やり取り」していたのが「顧問弁護士」だったというのであれば、会見の運営にどのような方針で臨むのかについて、コンサル会社と「顧問弁護士」との間で、どの程度に認識を共有していたのか、「ジャニーズ事務所に対して批判的、攻撃的な質問をしてくる記者への対応」について、コンサル会社が、「指名候補記者・指名NG記者リスト」まで事前に作成して質問をコントロールする方針で臨んでいることを、どの範囲の関係者が認識していたのかが問題となる。
コンサルティング会社とやり取りしていたのが木目田弁護士であったかどうかは、郷原氏も不明としています。
その上で、顧問弁護士とコンサルティング会社の間で「会見の方向性にしてどの程度で認識を共有していたのか」、「攻撃・批判的な質問をする記者をコントロールすることにどの範囲の関係者が認識していたのか」という点が問題と指摘しています。
この問題点は、今後会見を行う際に明確にするべき事項と述べています。
・危機対応の失敗に対する意見
本件の対応では、前社長のジュリー藤島氏の意向と利益に沿うことを優先したこと、それに対する批判をかわそうとする対応に終始したことが、結果的に危機対応の失敗を招いたように思える。
旧ジャニーズの危機対応に失敗した要因は、前社長の意向や利益を優先したこと、批判をかわすための対応と指摘しています。
しかし、先に述べたとおり、弁護士は複雑な立場です。
今回の事案は、性加害問題に対する被害者への賠償・救済、所属タレントの活動の場を守ることやファンの期待に応えることなど、多数の問題が絡み合った複雑かつ特殊なコンプライアンス問題です。
そのため、対応が容易ではないことは誰にでも想像できるでしょう。
今回のような社会的要求が複雑に絡み合うコンプライアンス問題に対して郷原氏は、危機対応を行う弁護士は問題の本質・構造を理解することが求められると述べています。
記者会見に参加した弁護士・木目田裕弁護士について
木目田裕弁護士は、ビジネス法分野を中心にリーガルサービスを提供している西村あさひ法律事務所に所属する弁護士の一人です。
旧ジャニーズの性加害問題に関する記者会見に参加しています。
同事務所は、2024年3月22日に木目田弁護士が執筆した危機管理ニューズレターを公表しています。
誹謗中傷や個人攻撃に対する対策は、本当に難しいと思います。私は弁護士として誹謗中傷への対応を企業や個人にアドバイスしてきました。また、私自身も特定の人物から執拗な誹謗中傷や個人攻撃を受けています。社会では、そうした誹謗中傷や個人攻撃に晒された方が自死に追い込まれるなど、大変不幸な結果が現に起きています。それにもかかわらず、誹謗中傷は止みません。
誹謗中傷・個人攻撃をしている特定の人物については、明らかにしていません。
しかし、実名を上げながら旧ジャニーズ事務所の危機対応に対して批判した郷原氏を指している可能性があります。
また、ニューズレターで誹謗中傷に対する対応について語ることで、誹謗中傷・個人攻撃に対する注意や抗議をしているのではないかと考えられるでしょう。
木目田弁護士や郷原信郎氏の現在・今後の活動について
旧ジャニーズの危機対応に関わった木目田弁護士と、批判記事を執筆した郷原信郎氏の普段の活動について調べてみたのでご紹介します。
・木目田弁護士の活動
木目田弁護士は、西村あさひ法律事務所において危機管理実務を創始した人物です。
これまで企業不祥事に対する数々のアドバイスや第三者委員会・調査委員会の委員などを務めてきました。
日本経済新聞社が公表する「活躍した弁護士ランキング」では、2021年から2023年まで起業法務部門や危機管理部門で上位を受賞しています。
危機管理分野においては2020年から3年にわたって1位を受賞しており、危機管理のスペシャリストといっても過言ではありません。
危機管理に関してはデリケートな案件であるため、個別の案件の実績は公開されていません。
それ以外の案件では、西松建設株式会社が伊藤忠商事株式会社と資本業務を連帯する契約を結ぶにあたってのリーガルアドバイス、使用者責任に基づく損害賠償請求訴訟の対応などに携わった実績があります。
今後も危機管理を中心に、企業や個人へのリーガルアドバイスや訴訟の対応など幅広い事案で活躍すると考えられます。
・郷原信郎氏の活動
郷原氏は、元検察官の経歴を持つ弁護士であり、郷原総合コンプライアンス法律事務所の代表でもあります。
コンプライアンス問題を得意としており、コンプライアンス体制のコンサルティングや不祥事の個別対応などを手掛けています。
それ以外にも重要法令のリサーチ・アドバイス、民事全般や刑事弁護といった訴訟など幅広い業務に対応しています。
郷原氏の直近の活動では、東京五輪談合事件で株式会社セレスポと専務取締役の主任弁護人を務めています。
また、Webメディアやブログ、SNSでは度々コンプライアンス問題に関する記事を執筆しています。
批判記事を書いているのも、コンプライアンス問題に対して真摯に向き合っている姿勢からと考えられます。
まとめ
木目田弁護士は、旧ジャニーズ事務所の性加害問題の記者会見に携わっていたため、本人も批判を浴びる対象となってしまいました。
ニューズレターでは、特定の人物から誹謗中傷・個人攻撃を受けていると告白しており、大きな影響を受けているようです。
特定の個人の実名は挙げられていないので真実は不明ですが、実名を挙げて批判した郷原氏に向けて発信されたものと推測できます。
しかし、郷原氏も批判記事で複雑で特殊な事案と述べているので、危機管理のプロとは言え、対応がかなり難しい案件だと考えられるでしょう。
旧ジャニーズ事務所に対して、木目田弁護士を含めた危機管理の専門家がどのように関与していくのか、今後も注目が集まることでしょう。